不妊症とは
不妊症とは一般に結婚されて2年以上になるのに子供さんのできないご夫婦をいいます。その頻度は約10組に1組といわれています。さらに、環境ホルモンの影響や近年の晩婚化傾向、社会生活でのストレスのために不妊症に悩むご夫婦は増加しているといわれています。しかし、最近では不妊症は、早期に検査や治療を開始した方がより治療の効果が高いので、年齢などを考慮して早期に不妊症として治療する傾向にありあます。
不妊症の原因
不妊症の原因は一つとは限らず種々のものが関係しています。大まかに言うと、三分の一が女性に、三分の一が男性に原因があり、残りの三分の一は原因が判らない(機能性不妊)ものです。したがって、不妊症の検査や治療をしていく上で大切なことは、どちらに原因があるかと考えるのではなく、ご夫婦で協力して治療しようと考えることです。
不妊症の検査
不妊症の原因が多くあるように、不妊症の検査も多くのものがあります。検査で重要なことは、他の病気の検査と違って不妊症の検査では検査をする時期も重要であるという点です。それは同じホルモンでも月経周期によって、その量や働きも異なる事があるからです。
一般的には、月経中に卵の発育を調節する基礎的なホルモンの検査をおこないます。次に、月経が終了して排卵までの間に子宮や卵管の検査をおこないます。また、排卵の前には卵の成熟の程度を調べる検査としてホルモンや卵の形、大きさなどを検査します。さらに排卵後には着床に重要な子宮内膜の様子をホルモンや形、時には一部分を採取して顕微鏡で検査する事もあります。(図1)
(1)基礎体温
基礎体温は卵の成熟や排卵などの卵巣の働きを知るための不妊症において基礎的な検査です。基礎体温とは、全く何もしていないときの体温を示しますが、実際には朝、目が覚めたときの体温を婦人体温計を使って測定します。基礎体温は排卵や排卵後の黄体の働きを知ることができるなど重要なもので、不妊治療の基礎となる検査です。
基礎体温を測るときの注意点は、なるべく同じ時間に同じ体温計で測定する事です。普段より早くはかると基礎体温は低く、遅くはかると高くなります。(図2)また、基礎体温に関係して多い間違いの一つが、体温陥落日が排卵であるという考えです。ほとんどの排卵は基礎体温の低温期から高温期にかけて起きており、体温陥落日と一致しないことが多く観られるからです。(図3)
(2)間脳-下垂体-卵巣機能検査
この検査は卵巣の働きを調節している脳の中枢の働きを知るための検査です。性腺刺激ホルモン放出ホルモン(Gn―RH)を用いて、卵を発育させる卵胞刺激ホルモン(FSH)と排卵を起こす黄体化ホルモン(LH)の反応性を調べます。この検査により、排卵障害のある部分がわかり、排卵誘発法の選択の重要な指標になります。
(3)卵管検査(卵管疎通性検査)
卵管が通っているかどうかを調べる検査です。検査方法は炭酸ガスを使って卵管の疎通性を調べる通気検査や、水を使って卵管の疎通性を調べる通水検査と、造影剤を使ってレントゲン撮影する子宮卵管造影法があります。また、卵管検査後に妊娠しやすいことは知られており、治療目的で卵管検査をすることもあります。
(4)子宮検査
子宮の奇形や子宮筋腫、内膜ポリープなども不妊の原因となります。そのための検査としては子宮卵管造影法が一般的な検査です。それ以外に超音波断層法や、子宮頚管から細いスコープを子宮の中に入れて子宮の中を直接観て異常を調べる子宮鏡検査があります。
(5)子宮頚管検査
子宮頚管では排卵が近くなると頚管粘液が多くなります。この頚管粘液は妊娠に適した直進運動をする精子を選ぶ働きがあります。排卵直前に頚管粘液やその中の運動良好精子を調べる性交後検査またはフーナー試験をして頚管粘液と精子の適合性を検査します。
(6)子宮内膜検査
子宮内膜は卵胞が成熟するときに分泌する卵胞ホルモンにより厚みを増します。ホルモンの分泌が少なかったり、そのバランスが悪いときには子宮内膜の厚さが厚くならなかったりする事があります。
(7)精液検査
精液検査は排卵以外の時期に検査します。検査としては精液の量や精子数、精子の運動率などを検査します。
(8)その他の検査
検査としては今まで説明したもの以外に、一般的な検査、排卵を障害する事のあるその他のホルモンの検査、免疫やアレルギーに関係する検査、子宮内膜症の検査などがあります。
不妊症の原因と治療
(1)排卵障害があるとき
排卵障害とは排卵がない場合と排卵の時期が遅い場合や不規則な場合で、卵の発育を早める排卵誘発剤や成熟した卵が排卵しやすく排卵を起こす注射などをします。排卵誘発剤にはクロミッドやセキソビットなどのように内服するものとhMG製剤と呼ばれている注射をするものがあります。
(2)PCO(多嚢胞性卵巣症候群)のとき
排卵障害の内で、卵は多数発育するのに排卵しないものがあり、多嚢胞性卵巣症候群(PCO)と呼ばれています。このPCOは排卵が障害され、月経異常や肥満、多毛などがおこります。治療としては腹腔鏡などで卵巣の一部分を切り取る治療(MPR)をすると排卵が起こりやすくなります。
(3)卵管が閉塞しているとき
卵管閉塞の場所により治療法が異なります。子宮内腔に近い場所での閉塞には子宮鏡や卵管鏡を用いた方法、卵管の外で癒着している場合には腹腔鏡下での癒着剥離術が行われています。卵管の中央で閉鎖している場合には開腹して顕微鏡を使い卵管をつなぎ直すマイクロサージェリーの必要があります。
(4)子宮奇形や子宮筋腫があるとき
子宮奇形や子宮筋腫は子宮卵管造影や超音波検査などで検査します。子宮奇形や子宮筋腫はその程度や場所により、子宮の入り口の方から子宮鏡などを使って手術をしたほうが良い場合やお腹の方から腹腔鏡や開腹して手術をしたほうが良い場合があります。また、筋腫の場合には手術の前に薬によって筋腫を小さくした上で手術を行う方法が有効な場合もあります。
(5)子宮内膜症があるとき
子宮内膜症は子宮の内膜が子宮内腔以外の場所にできる病気で、生理痛が激しい月経困難症や子宮後屈を伴い不妊症の原因になることがあります。しかし、子宮内膜症は典型的な場合をのぞいて診断が困難で、腹腔鏡検査など腹腔内を直接観察して初めて診断がつく場合があります。
治療法としては月経を止める方法(GnRHa投与法)や超音波下や腹腔鏡下に嚢腫を穿刺して医療用アルコールで病変部分を固める治療方法があります。
(6)精子の数が少ないとき
精液検査で精子の数が2000万/mlより少ない場合や精子の運動率が悪い場合には、ホルモン剤や漢方薬を用いる薬物療法や精管の閉塞例などには手術療法をおこないます。その他の治療としては夫の精子を直接子宮の中に入れる配偶者間人工授精(AIH)や体外受精・胚移植などがあります。
(7)習慣流産・不育症のとき
流産を3回以上繰り返す場合を習慣流産または不育症として検査治療が行われます。一般的な原因は不妊症の場合と共通しています。治療法も子宮異常や内分泌異常、感染症など比較的検査や治療方法が明確なものから免疫異常のように検査や治療方法があまり確立されていないものもあります。
この免疫異常の内、血液が固まりやすいために流産を繰り返す抗リン脂質抗体症候群は、特殊な抗体などを調べることではじめて原因がわかるもので、この場合には、血液が固まりにくくする薬とアレルギーをおさえる薬を妊娠の初期から投与する療法により、流産を防ぐことができます。
最新の医療-カウンセリング
従来の不妊治療では、特に技術的な面が重要視され発達してきた。その一方で、精神的なケアーはあまり重要視されていなかった。そのため、ストレスなどが原因で、治療が不本意に中断するケースも多々みられた。しかし、最近の研究では、長期にわたる不妊治療では、精神的な面からの支えが非常に重要であり、精神的なケアーが十分に行われることによって、良い結果がもたらされることがわかってきた。そこで不妊外来でも治療の一環としてカウンセリングを取り入れている。